【はじめに】
2023年が新たに始まりましたね。日本は1970年に「高齢化社会」に突入し、2007年に「超高齢社会」へ移行しました。今後も高齢者率は高くなると予測されており、2025年には約30%、2060年には約40%に達するといわれています。今後の年月の経過とともに、高齢者率に比例して認知症患者さんも増えていくと思われるため、認知症患者さんに対して改めて理解と知識を深めていくことができればと思います。
【認知症とは】
認知症とは、さまざまな原因で記憶や思考などの認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすことをいいます。認知症のなかでもっとも多いのはアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症では、脳に異常なタンパク質がたまり、脳の神経細胞の数が減少していきます。そのほかにも、脳の血管の障害による血管性認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などさまざまなタイプがあります。
【認知症の症状】
認知症の症状は「認知機能低下」と「行動・心理症状:BPSD」に分かれます。
●認知機能低下
神経細胞が壊れるなどの脳の変化にともなって生じる記憶障害や理解、判断力の低下などの症状です。
※具体的な認知機能低下には以下の内容があります。
記憶(記憶障害):さっき話したことを忘れて、何度も同じ話を繰り返したり、物をしまった場所や約束を忘れたりします。火の消し忘れ、薬の飲み忘れなどのリスクもあります。
注意(注意障害):注意力や集中力が低下し、同時に2つのことがしづらくなったり、会話についていけなくなります。
言葉(言語障害・理解力の低下):適切な言葉が出にくくなり、相手の話が理解しづらくなりします。
日付・場所(見当識障害):今がいつなのか、ここがどこなのか分からなくなることがあります。
段取り(実行機能障害):ものごとを計画し、順序だてて実行することが苦手になり、家事や仕事の段取りが悪くなります。
●行動・心理症状(BPSD)
認知機能低下に本人の性格や周囲の環境、人間関係などさまざまな要因が作用して起こる不安や焦燥、徘徊など心理面、行動面の症状のことをいいます。※具体的な行動・心理症状には以下の内容があります。
暴言・暴力:感情のコントロールがしづらくなり怒りや衝動を抑えられなくなります。
無為・無関心:やる気が起きず、当たり前に行っていた習慣すら面倒くさくなります。
不安・うつ:できないことが増え自信を失い、気分が落ち込み、うつ状態になります。
妄想:お金への執着が強くなり、妄想が生じてしまうことがあります。
徘徊:今いる場所がわからなくなる不安などから、外出して目的なく歩き回ります。
睡眠障害:体内時計の乱れから、寝つきが悪くなり、朝早く目覚めてしまいます。
幻覚・幻聴:周囲の人に見えていないものが見えたり、聞こえない音が聞こえたりします。
症状はとても多彩です。ただし、どのような症状が起きるかは認知症の原因や本人の性格、人となり、周囲の環境などによって変わってきます。
【認知症かな?と感じたときの病院受診】
もし身内の方が認知症かもしれないと思った時、どの病院を受診すればよいのでしょうか?診療科(内科、精神科、脳外科など)が分からないこともあると思います。一般的に精神疾患は精神科を受診すべきと思われるでしょうが、認知症の診療を行う診療科は1つではありません。「もの忘れ外来」「認知症外来」「脳神経内科」「精神科」「老年病科」「脳神経外科」など多数あります。初めて受診する場合、まずはかかりつけ医にご相談されることをお勧めします。
なお近年は、認知症の人が住み慣れた地域で専門医療を受け安心して生活ができるよう、国が主導するかたちで全国各地に「認知症疾患医療センター」も設置されています。規模や診療機能によって基幹型(主に総合病院)、地域型(単科の精神科病院など)、連携型(診療所など)の3つに分類されますが、タイプに関わらず専門的な診療が行われています。専門知識を持つスタッフが治療や介護についての相談にも応じています。
【病院受診時はどのようなことをするのか?】
① 問診(診察)
問診では主に次のようなことを聞かれます。
・受診のきっかけ、いま困っていることや感じていること
・きっかけとなった症状や変化が気になり始めた時期
・今までにかかった大きな病気や怪我について
・現在、治療している病気や怪我について
・現在、使用している薬について
・現在の生活状況について
診察室で色々なことを聞かれても慌てずに答えられるよう、事前に伝えたいことをメモして持っていくと良いでしょう。ふだんの本人の様子を知る家族が同行することは診察の大きな助けになります。付き添いの方がいたほうがご本人も安心できますし、伝えきれない部分を代わりに説明することもできるからです。落ち着いて診察に臨めるよう、病院には余裕をもって到着することも大切です。
② 検査
認知症の診断にあたってはさまざまな検査が行われます。代表的なのが神経心理検査と画像検査です。
●神経心理検査
認知機能の状態を細かく確認するための検査です。ほとんどの検査では、机をはさんで向き合い、手順に従って質問に答えたり、何かを書いたり、道具を操作したりします。改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステイト検査(MMSE)などがあります。
●画像検査
形態画像検査:脳の萎縮や脳梗塞・脳出血・脳腫瘍などの脳内の病変の有無など、脳の形を調べる検査です。CTやMRIなどがあります。CTはエックス線、MRIは磁気による検査ですが、MRIのほうがさまざまな断面の画像を撮影することが可能です。また、MRIは撮影方法が複数あり、異なる方法で撮った画像を比較するなどすれば、より正確な診断も可能になります。
機能画像検査:脳の血液の流れを測定して脳の働きを調べる検査です。代表的な検査法がSPECTです。
この他にも血液検査や心電図、レントゲンなども行われることがあります。ただし、どの検査を行うかは病院によってさまざまです。最近は、認知症に関わる脳内の変化をより早期に捉えられるような検査など、認知症の早期発見や脳の機能チェックを目的としたさまざまな検査を行う人間ドック(脳ドックとも呼ばれています)もあります。
③ 診断
問診の内容や検査の結果を医学的に整理して、医師は現時点で考えられる診断を行います。これをもとに、治療やケアについて話し合い、どうしていくか方向性を決めることになります。医師からは利用可能なサービスに関する助言や、行政による支援の相談窓口を紹介されることもあります。
【認知症の発症・進行予防にはどうすれば良いか?】
最近の研究では、加齢以外にも不活発なライフスタイルや喫煙、不健康な食事、過剰な飲酒などが認知機能の低下や認知症に関わっていることがわかっています。また、高血圧や糖尿病、肥満、うつ病なども認知症の発症リスクに関連していることが示されています。
WHO(世界保健機関)は2019年に『認知機能低下および認知症のリスク低減』のためのガイドラインを公表しました。ガイドラインの序文では、「認知症には治療法がないものの、修正可能な危険因子に対する予防管理により、発症や進行を遅らせることは可能である」としています。
実際に何を行えば良いのでしょうか。結論から言うと、生活習慣病の予防と大きく変わりません。積極的に人と交わり、バランスの良い食事、適度な運動など健康に良いとされる習慣を無理のない範囲で取り入れ、高血圧や糖尿病をきちんと管理し、脳卒中の予防に努めれば、血管性認知症をある程度予防できるだけでなく、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の進行を遅らせることも期待できます。
【おわりに】
超高齢社会となり16年が経過し、筆者の両親の世代も高齢者となるときが近づいてきました。家族の誰かが認知症となったときは焦らず、正しい対応ができるか分かりません。しかし、一人一人が最善の対応や行動が取れるようになれば、社会全体で超高齢社会という荒波を超えていけるのではないかと思います。
今後も地域の皆さんや入院患者さんの生活をより良いものにできるように努力していきます。
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