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リハビリテーション通信

耳の日|難聴と認知症|ヘッドホン難聴|難聴とリハビリテーション|リハビリテーション部

【はじめに】

3月3日は耳の日です。
「みみ」の語呂合わせと「3」が耳の形に似ていることにちなんで、日本耳鼻咽喉科学会が3月3日に記念日を制定しました。2007年には中国の北京で開催された「第1回聴覚障害の予防とリハビリに関する国際会議」において、毎年3月3日をInternational ear care day(国際耳の日)とすることがWHO(世界保健機関)によって宣言されています。
そこで、今回は「難聴」に関するお話をしたいと思います。
筆者は言語聴覚士というリハビリテーション職です。言語聴覚士の資格を取得するために通った専門学校で耳についての勉強をしました。授業の中で、当時少し話題になっていたモスキート音を聞く機会がありました。「モスキート」とは「蚊」のことで、モスキート音とは1万7000Hz前後の高周波数の音です。若年層には不快な高音として聞こえますが、年齢とともに周波数の高い音が聞きとれなくなってくる中高年層では聞き取れないことが多いと言われています。クラスの約半数の学生が20代前半で当然のように聞こえたと手を挙げる中、筆者を含めた30代以上は何も聞こえず、聴力の衰えを初めて実感しました。加齢による聴力低下は思っているよりも早く始まり、ゆっくりと進行していくのです。講師からは「耳は消耗品だから大切にした方がいい」といった話もありました。どういうことなのでしょうか。

【音が聞こえるには】

外部からの音は空気の振動として耳に届きます。空気の振動は、まず耳介で集められ、外耳道を通り、鼓膜を振動させます。その振動は耳小骨で増幅され、蝸牛という螺旋状をした器官へ入ります。この時、音を感受するのが蝸牛の中にある「有毛細胞」という細胞です。有毛細胞は片耳に約15,000個並んでおり「感覚毛」という細い毛のような束をもっています。蝸牛に音の振動が伝わると、感覚毛が音を電気信号へと変換し、聴神経を経て脳に到達することで音が認識されます。
この重要な役割を担っている有毛細胞が加齢や騒音の影響などで壊れてしまうと、音を感じ取りにくくなり、難聴を引き起こします。一旦壊れてしまった有毛細胞は元には戻らないと言われています。

 

【ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)】

最近はヘッドホンやイヤホンをしている方をよく目にします。ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)とは、ヘッドホンやイヤホンで大きな音量の音楽などを聞き続けることにより、有毛細胞が徐々に壊れて起こる難聴です。少しずつ両方の耳の聞こえが悪くなっていくため、初期には難聴を自覚しにくいことが特徴です。WHOでは11億人もの12~35歳の若者たちがヘッドホン難聴(イヤホン難聴)のリスクにさらされているとして警鐘を鳴らしています。
大きすぎる音量で聴かない、長時間連続して聴かずに定期的に耳を休ませるなどの予防が重要となります。WHOは80dB(電車の車内やパチンコ店内の音の大きさ)で1週間当たり40時間以上、98dB(電車が通る時のガード下の音の大きさ)で1週間当たり75分以上聞き続けると難聴の危険があるとしており、ヘッドホンやイヤホンで音楽などを聞くときには、耳の健康を守るために、以下のようなことを推奨しています。
● 音量を下げたり、連続して聞かずに休憩を挟んだりする
● 使用を1日1時間未満に制限する
● 周囲の騒音を低減する「ノイズキャンセリング機能」のついたヘッドホン・イヤホンを選ぶ

 

【難聴と認知症】

難聴になってしまうと認知症になりやすいと言われています。認知症患者の約9%が、難聴が原因で発症したものと推測されており、中年期に難聴があると高齢期に認知症のリスクがおよそ2倍上昇するとの報告もあります。
なぜ、難聴になると認知症になりやすいのでしょうか。難聴になると耳から脳に伝達される情報量は極端に少なくなってしまいます。脳の各部位は互いに連携しているので、音声を処理する部位以外も影響を受けます。そうなると脳の神経細胞の働きが弱まり、脳が萎縮して認知機能が低下していきます。
また、難聴になるとコミュニケーションを取りにくくなるため、人や社会との関わりを避けてしまい、社会的に孤立し、抑うつ状態に陥っていくことになります。このような生活の変化も認知症発症への危険因子と考えられています。

 

【難聴と事故】

アメリカにあるジョンズ・ホプキンズ大学の研究では「軽度の難聴でも、健聴者に比べて転倒の危険性を3倍に増加させる」 という報告があります。また、難聴が進行するほど転倒する危険性も高くなります。
難聴になると周囲の環境を認識しにくくなり、他者からの注意の声かけも聞き取れなかったり反応が遅れたりします。同時に音が聞こえにくいと、脳は周囲の様子を知ろうとして音を聞くことに容量を割きます。一部に大きな容量を割くと他の部分の意識が低下し、バランスや歩行への意識が低下してしまうことがあります。もともとバランスや歩行能力が低下している高齢者はその影響を大きく受けてしまうと考えられます。このように、難聴は転倒事故や交通事故に結びついてしまう危険性があります。

 

【難聴とリハビリテーション】

筆者が日々行っているリハビリテーションにおいても、難聴は大きな阻害因子となります。言語聴覚士は、ディサースリアという言葉を明瞭に発することができなくなった方や、失語症のような「話す」「聞く」といった言葉が思うように使えなくなってしまった方のリハビリテーションを行います。難聴のあるディサースリアの方は自分の話す言葉を自分でフィードバックすることができず、きれいに話せているかの判断がつきにくくなります。また、難聴のある失語症の方には我々の話す言葉が理解力以前に聞き取れず、リハビリテーションがスムーズに進みにくくなります。コロナ禍で感染対策をしながらであれば余計に大変です。

 

【おわりに】

「耳は消耗品」とは、耳の中の有毛細胞が壊れてしまうと元には戻らないということでした。大音量で音楽を聴くのは楽しいとは思いますが、これからも長く楽しむためには耳を適度に休ませて健康に保ちましょう。筆者はこれまで、難聴になりたいという人に出会ったことはありませんが、もしかしたら日々の行動が難聴に繋がってしまうかもしれません。認知症や事故のリスクになること、また病気になってしまったときのリハビリテーションの支障になることを少しだけ頭に置いて、耳を大切にしていただければと思います。

 

今回の執筆者:言語聴覚士 榎本 卓也(えもと たくや)
徳島県徳島市出身、言語聴覚士としてもうすぐ12年目になります。
昨年は家族が病気になり、江藤病院に入院していました。病院職員からも親身に治療、看護・介護、リハビリテーションを受けることができ、江藤病院に勤めていてよかったと感じました。皆様の大切な人を任される病院、セラピストでありたいと思っています。

 

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