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生命を最大限に発揮する力 ― レジリエンス|江藤病院院長 近藤和也

大きな災害が頻発する現代、「心的外傷後ストレス障害(PTSD:Posttraumatic Stress Disorder)」という病名を耳にする機会が増えている。PTSDとは、生命や身体の安全が脅かされるような強烈なストレス体験(災害、事故、暴力、戦争、医療的危機など)をきっかけに、1か月以上持続する心理的・身体的症状を特徴とする精神疾患である(1)。1996年、Tedeschiは、このようなサバイバーが示す成長過程と能力を心的外傷後成長(PTG:Posttraumatic Growth)と名付けた。PTGとは、危機的な出来事や困難な経験との精神的な葛藤や闘いの結果として生じる、ポジティブな心理的変化のことである(2, 3)。トラウマとなる体験をした人の約90%が、その後何らかの心理的成長を遂げることが明らかになっている。

PTGと類似した概念にレジリエンスがある。レジリエンスは、ストレスから立ち直るための個人的な能力で、生まれ持ったものだけでなく、後天的に獲得することもできる。一方、PTGはトラウマを経験した後に生じる心理的変化であり、後天的に形成される点が特徴である(4)。レジリエンスという概念は、1970年代頃から精神病理学分野の研究を通じて注目されるようになった。Rutter(1985)はレジリエンスを「深刻な危険性にもかかわらず、適応的な機能を維持しようとする現象」と定義している。また、米国心理学会(APA)は「逆境、心的外傷、悲劇、脅威、人間関係問題、深刻な健康問題などから生じるストレスにうまく適応する力」と説明している(6)。枝廣淳子(2015)はレジリエンスを「強い風にも重い雪にも、ぽきっと折れることなく、しなってまた元の姿に戻るように、何があってもしなやかに立ち直れる力」と表現している(7)。レジリエンスは性格などの固定的な特性ではなく、逆境を経験した人々が保持している行動・思考・態度に含まれるものであり、誰でも学習し発展させることができるとされている(6, 8)。

アメリカ心理学会が提唱する「レジリエンスを築く方法」(2020年)

① つながりを築く(Build your connections)

共感し合い、笑い合い、会話を楽しむことはレジリエンスを高める。友人と遊びに行く、パートナーと定期的に出かける、家族と毎朝食事をするなど、日常のつながりはメンタルヘルスに極めて重要である。

② ウェルネスを育む(Foster wellness)

ウェルネスとは、身体的・精神的・社会的に健康な状態を指す。十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動など、心身の健康を大切にする姿勢を持つことが重要である。

③ 目的を見つける(Find purpose)

「これからの人生をどう生きるか」という目標が定まると、困難な時期も乗り越えやすくなる。心理学ではアイデンティティの確立と呼ばれる。一度きりの人生、自分なりの目的を探し、エネルギーを注いでいきたい。

④ 適応的な考えを受け入れる(Embrace healthy thoughts)

出来事を多角的に捉え、状況を受け入れる姿勢はレジリエンスに重要である。苦しい時期こそ、頭を柔らかくし、多様な視点を持つことが求められる。

⑤ 援助を求める(Seek help)

周囲からサポートを受けることはレジリエンスを高める上で不可欠である。強いストレスやトラウマは、一人では乗り越えられないこともある。家族や信頼できる友人、専門家やサポートグループの力を借り、安心できる環境を整えよう。

⑥ 決断し行動する(Take decisive actions)

不利な状況でも自ら決断し行動する経験はレジリエンスを高める。問題に背を向けるのではなく、自分なりに判断し行動することが大切である。

⑦ 自己発見の機会を探す(Look for opportunities for self-discovery)

危機的状況を乗り越える経験はレジリエンスを鍛える。大きな悲しみや困難の後には、より良い人間関係、心の強さ、自己価値の向上、精神性の発達、人生への感謝など、何らかの成長が生まれる。

⑧ 自信を深める(Nurture a positive view of yourself)

問題を自分の力で乗り越え、経験を積むことは自信につながる。「自分には失敗を乗り越える力がある」「社会でやっていく力がある」と感じられるようになる。

⑨ 広い視野で捉える(Keep things in perspective)

目の前の困難を広い視野で捉えることでレジリエンスは高まる。長期的な視点でストレスを見つめ直すことで、苦痛な状況も人生の一部として乗り越えられる。

⑩ 希望に満ちた展望を維持する(Maintain a hopeful outlook)

楽観的な見方はレジリエンスを高める。ポジティブな見通しを持ち、良いことを期待することで希望が生まれる。恐れや心配を想像するのではなく、望む未来を思い描こう。

⑪ 自分を大切にする(Take care of yourself)

レジリエンスの基本は自己を大切にすること。一度きりの人生、自分をないがしろにせず、自己受容し、努力している自分を認めていこう。

おわりに

私たちの生命には、どのような困難にも対処しようとするレジリエンスという力が備わっている。その力を最大限に発揮し、さまざまな困難を乗り越えていきたい。

近藤和也院長

【参照】
1) PTSDとは | 日本トラウマティック・ストレス学会
2) Tedeschi, R.G., & Calhoun, C.G. (2004). Posttraumatic growth: Conceptual foundations and empirical evidence. Psychological Inquiry, 15, 1 – 18.
3) トラウマ後の成長と構成主義心理学|munelabo
4) PTG(心的外傷からの心理的成長)とは?
5) Rutter, M. (1987). “Psychosocial resilience and protective mechanisms.” American Journal of Orthopsychiatry, 57(3), 316–331.
6) American Psychological Association  Resilience
7) 枝廣 淳子 (2015).  レジリエンスとは何か─何があっても折れないこころ,暮らし,地域,社会をつくる─  東洋経済新報社
8) レジリエンスの意味と鍛え方を公認心理師が解説-ダイコミュ心理療法 | 心理療法専門解説サイト (direct-commu.com)
9) The American psychological Association. (2014). The Road to Resilience on-line.
Retrieved from https://uncw.edu/studentaffairs/committees/pdc/
documents/the%20road%to%resilience.pdf  (October 16, 2021)

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