ボツリヌス療法|リハビリテーション通信
江藤病院リハビリテーション部がお届けしている「リハビリテーション通信」。今回は「ボツリヌス療法」についてです。
ボツリヌス療法は「ボトックス®」としても知られており、美容医療をイメージする方もいらっしゃるかもしれません。ボトックス®は、ボツリヌス療法に使用される製剤のひとつであり、けいれんの治療薬として開発されてきました。
当院では、けいれん・痙縮を対象としたリハビリテーションのためにボツリヌス療法を取り入れています。そこで、リハビリテーションのためのボツリヌス療法について、2回にわたってご紹介します。
ボツリヌス療法とは
ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を、筋肉内に注射する治療法です。
ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があります。ボツリヌストキシンを注射することで、筋肉の緊張をやわらげることが可能になります。
ボツリヌス菌そのものを注射するわけではありませんので、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。
ボツリヌス療法の適応対象
(日本で適応が認可されている疾患)
・眼瞼けいれん(瞼がけいれんする病気)
・片側顔面けいれん(顔の筋肉が収縮する病気)
・痙性斜頸(首が斜めに曲がってしまう病気)
・小児脳性まひ患者の下肢痙縮に伴う尖足(つま先が伸び、かかとが床につかない状態)
・重度の腋窩多汗症(ワキの下に多量の汗がでる病気)
・斜視(両眼の視線が同じ方向に向かない状態となる病気)
・けいれん性発声障害(声帯の筋肉が緊張し、声が出にくくなる病気) など
痙縮とは
痙縮は、筋肉が緊張しすぎて、手足がつっぱり動かしにくい、または勝手に動いてしまう状態のことを指します。
脳卒中による運動(機能)障害としてもみられる症状で、手指が握ったままとなり、開こうとしても開きにくい、肘が曲がる、足先が足の裏側の方に曲がってしまうといったケースがみられます。
痙縮による姿勢の異常が長く続くと、筋肉が固まって関節の運動が制限され(拘縮)、日常生活に支障が生じます。また、痙縮がリハビリテーションの障害となるケースもあるため、痙縮に対する治療が必要となります。
痙縮の治療
痙縮の治療には、ボツリヌス療法のほかに、内服薬、神経ブロック療法、外科的療法などがあります。患者さんの病態や治療目的を考慮して治療法を選択し、リハビリテーションと組み合わて治療を進めます。
・ボツリヌス療法
筋肉を緊張させている神経の働きを抑える、ボツリヌストキシンという薬を注射
・内服薬
緊張している筋肉をゆるめる働きのある薬を服用
・神経ブロック療法
筋肉を緊張させている神経に、フェノールやアルコールなどを注射し、神経の伝達を遮断
・外科的療法
筋肉を緊張させている神経を、部分的に切断したり、神経の太さを縮小したりする手術
ボツリヌス療法で期待できる効果
・筋肉がやわらかくなり、手足が動かしやすくなることで、日常生活動作を行いやすくなる
・リハビリテーションが行いやすくなる
・関節が固まることによる動きにくさや変形を防ぐ(拘縮予防)
・手足のつっぱりによる痛みがやわらぐ
・介護の負担軽減
ボツリヌス療法のすすめかた
ボツリヌス療法では、注射後2~3日目から徐々に効果がみられることが多く、通常3~4ヶ月持続します。治療を続ける場合、年に数回、注射を受けることになります。個人差があるため、医師と症状を相談しながら治療計画を立てます。繰り返し治療を行うなかで、よりよい投与量や投与部位などをみつけていく治療法です。
リハビリスタッフからのメッセージ
ボツリヌス療法によって筋肉の緊張がやわらいでも、リハビリテーションを行わなければ機能の回復は望めません。リハビリテーションを継続しながら、ボツリヌス療法を一緒に行うことによって、日常生活の動作などをより行いやすくなることが期待できます。次回、当院におけるボツリヌス療法の実際について、ご紹介します。