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私と褥瘡とのかかわり|日下 至弘 副院長

私は、内科研修医2年目に、大学病院からのローテートで、ある町立病院に勤めることになりました。
入院患者さんは、高齢で、寝たきりの患者さんも多く、褥瘡を発症している患者さんもたくさんいました。それまで、大学病院でしか診療したことのない研修医にとっては患者層が別世界でした。皮膚科の常勤医はいなかったため、なかなか治療がうまくいっていない状態でした。

ちょうどそのころ、書店でみつけた書籍に、褥瘡の色に応じた治療方法が紹介されておりさっそく購入しました。今でも使用されている色調分類ですが、褥瘡を黒色期、黄色期、赤色期、白色期とわけて処置方法を変えていくものでした。黒色期はイソジンシュガー、黄色期はハイドロサイトやデュオアクティブ、赤色期はオルセノン軟膏、白色期はアクトシン軟膏を使用するというような処置法でした。

内科の研修医であるにもかかわらず、患者さんの腐っていくからだをどうにかしたいという一心から、病院長に褥瘡の治療をしたいとお願いし、上記の処置法を参考に毎週の褥瘡回診を開始しました。

病院にあった、一眼レフカメラ(デジカメのない時代、もちろんフィルム)で毎週写真を撮って、現像に出していました。写真を撮って比較することで褥瘡が良くなっているのか悪くなっているのかがよくわかりました。現像に出してくれていた事務職員が褥瘡の写真をみて「うぇー」と顔をしかめていたのを今でもよく覚えています。2年程その病院で褥瘡治療にかかわりました。軽症であれば、上記の治療で目を見張るような軽快をすることもありましたが、重症であればやはり治癒は困難でした。

その後、消化器内科医として、主に内視鏡治療の専門的な治療ばかりを行う病院に勤務したため褥瘡とのかかわりはまったくない状態となりました。

平成13年4月より、当院に勤務するようになり再び褥瘡とのかかわりができました。当時、褥瘡は非常勤の皮膚科の先生に診てもらっている状態でした。ちょうどそのころに、「褥瘡に対するラップ療法」、「創傷に対する湿潤療法」、「傷は消毒してはいけない」など、これまでの常識を覆す治療法が紹介されました。褥瘡、創傷に対して従来の消毒してガーゼを当てる治療は間違っているというパラダイムシフトでした。ラップ療法(今では開放性ウエットドレッシング療法)、湿潤療法の書籍を購入し、講演会にも参加してそのキズの治りの速さ、きれいさに目を見張りました。

熱傷に対してもラップ療法は使えるということを知った矢先に、しらすの釜揚げ作業中に、片腕全体の2度熱傷を受傷された患者さんが外来に受診されました。片腕全体の表皮が真っ赤になりただれた状態でした。患者さんにラップ療法を説明し、治療を受けていただきました。熱傷部を水道水で洗浄しラップを巻いて、毎日受診していただきました。臭いは結構あるのですが、新たな表皮がまたたく間に形成されて治癒しました。治療中の痛みがないこと、治癒の速さに外来の看護師も驚いていました。

平成16年、当院にNST(栄養サポート)チームを立ち上げるタイミングで、NST内に褥瘡対策チームを設置しました。褥瘡の治療と栄養状態の改善は切り離せないためです。また、非常勤の皮膚科の先生は複数の先生が交代で診療されるため、先生ごとに治療方法が異なることがあり、それを褥瘡対策チームでラップ療法に統一するためでもありました。現在も継続していますが、毎週金曜日にNST回診とともに褥瘡回診も行っています。

当院では褥瘡の処置は基本的にラップ療法(現在はラップではなくフィルムパッド)ですが、褥瘡の状態に応じ、軟膏類も併用して使用します。軽度の褥瘡であればほぼラップ療法で治癒しますが、やはり深いもの、ポケット(皮膚のしたに空洞を形成)をもつ褥瘡は難治です。

平成22年、褥瘡、創傷の新しい治療方法として陰圧閉鎖療法が認可され、当院でも導入しました。深い褥瘡の中に、フォームというスポンジを詰め表面をフィルムで密閉し創部に陰圧を作る装置をつないで肉芽形成を促す治療です。初期は、感染を伴う褥瘡には使用できませんでしたが、現在は生理食塩水を還流するタイプで感染を伴う創にも使用できるようになっています。この治療により、大きくてかなり深さのある褥瘡の治癒スピードを上げることができるようになりました。

しかし、ポケットを形成している褥瘡は、陰圧閉鎖療法、ラップ療法でもうまく治療できませんでした。ポケット形成の褥瘡は、表面からの見た目が5mm程度しかなくても、空洞が5㎝以上の大きさで拡がっていることがよくあり、創が洗浄できず、陰圧閉鎖のフォームを詰めることもできないのです。このような褥瘡に対しては当院では、褥瘡切開術を行い、創洗浄、フォームを詰めることが可能な状態とし、その後陰圧閉鎖療法に移行することとしています。この方法でポケットがある褥瘡も治癒できるようになりました。

最近は、当院の特定看護師が褥瘡のデブリドマン(壊死した組織の除去)を行えるようになったため、週1回の褥瘡回診の時だけでなく、重度の褥瘡の状況把握がもっと綿密に行えるようになり、褥瘡治療の質がさらに上がっていると感じています。

私は、内科医ではありますが、もう延べ20年褥瘡の治療に携わっています。褥瘡以外にもキズややけどなどの創傷治療も行っています。

これからも、当院で診療を受けられる患者さんに必要な医療を内科であることにこだわらず提供していきたいと思います。

日下 至弘 副院長

 

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