手芸とは、国語辞典では『手先を使う技芸。刺繍や編み物、裁縫などをいう』とされています。
日本においては、主に女性を担い手とする、家庭内での商業化されていない趣味的な制作を意味する概念とされていたようです。
しかし時代の流れとともにその意味は変わり、今では社会交流の場として、リハビリテーションの場として使われるようになっています。
今回はこの手芸を通して日常生活に変化が生じた事例を紹介いたします。
私が所属している明和苑通所リハビリテーションでは、はり絵やぬり絵、和紙や組ひもで作った工作作品などをよく作っており、作成は個人で行うものから、複数人で行うものとさまざまです。
基本的には指先や上肢の訓練、認知機能向上を目的とした訓練、対人交流などをリハビリテーションの一環として実施しています。
このような手芸活動を、リハビリテーションスタッフや介護スタッフが個々の能力に応じて材料を提供するといった流れで役割を担っていただいております。
そういった手芸活動はいつしか作り手となっている利用者様の気持ちを変化させる効果を持っていることに気づきました。ある日、ぬり絵コンテストと題するイベントが施設内で行われることになりました。いくつかの題材の下絵を自由に選んで好きな色や書き方でぬり、結果はスタッフの厳選なる審査を経て、選ばれた作品は表彰され受付前のロビーに展示されるといった流れです。このイベントはその後7回目を超える息のながい活動となり現在も進行中です。
ではなぜこんなに続けることができたのかを考察してみます。まず回を追うごとにぬり絵の枚数が多くなり、人によっては自宅に持ち帰り丁寧に仕上げてくれる方もいました。またそのほかの手芸も含め、出来上がった作品は手芸展に出展したりロビーに展示したりすることで、自己効力感が高まり、次回作に対してのモチベーションとなっていると考えます。
とある研究では、過疎がすすむ地域高齢者に対してパソコン学習を行ってもらい生活の質をあげようとした取り組みがありました。具体的な流れは省略しますが結果は良好で、なかでも有効に働いた要素となっているのが、「目的をもって行う」こと、「作業ルームを設ける」こと、「自宅でも行える環境を作る」ことが大切であることが有用的に働くとのことでした。私は、この三つの要素に類似した部分が当施設の取り組みにもあるのではないかと考えました。
ぬり絵コンテストは、まず、人に評価していただく機会を得る目的をもっている、次に、いつでも誰でも使用できる作業ルームを設けている、もう一つは、ぬり絵を自由に選び宿題としてお持ち帰りしていただけるボックスを用意していることです。偶然ではありますが、こういった同じ要素を持ち合わせている環境は「楽しく自発的に継続した活動」に繋がっているのではないかと感じました。また同時にこういった効果は条件がそろえば、手芸でなくとも得られると思います。
ある有名アスリートがこのように言いました。
生きるとは「燃えること」「楽しむこと」自分なりに「チャレンジすること」
私はこの言葉にある生きるとは、生命という意味ではなく、活き活きするという言葉に置き換えられるのではないかと思っています。いくつになっても、病気やケガをしても、気持ちを活き活きさせて生きていくことが豊かな人生に繋がっていくのではないかと考えています。
作業療法士 大道浩志(おおみち こうじ)
徳島県徳島市出身 作業療法士歴27年目です。
先日とあるテレビ番組で100歳になられた方が長生きの秘訣についてインタビューされていました。お答えの中で印象にあるのが「今が幸せと思うこと」でした。またこちらの意見はお1人ではなく複数の方から同じ答えが聞かれたようです。古くから病は気からということわざが聞かれますが、嘘のようなホントの話かもしれませんね。
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